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古舘伊知郎・佐々木閑 / 生後半、そろそろ仏教にふれよう
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かつて何かの書物で「幸福」という言葉を持ち合わせていない部族があると読んだ記憶があります。
「幸福」という言葉がないというのは、一番幸福なのだろうと思ったことでした。
それがどこの部族なのか、全く忘れていたのですが、最近出版された佐々木閑先生と古舘伊知郎さんとの対談本『人生後半、そろそろ仏教にふれよう』の中に書かれていました。
一部を引用させてもらいます。
「こうして佐々木先生と輪廻や業について話していると、何十年か前、テレビ朝日でアナウンサーをしていた時代に取材したブラジルの原始部族の人たちのことを思い出します。
七〇人くらいのユニットなのですが、本当に原始的な暮らしをしていて、定住はせずに狩猟採集で移動して生活しているのです。
僕は取材後、酋長に「都会から来た人間からすると、あなた方の幸福の価値観がまだ理解できない。
こちらに来て原始的な暮らしがいいなぁと思う僕は偽善で、それはやがて文明がある都会に帰ると思っているから軽薄なことが言える。
皆さんの幸福観とは何かを教えてほしい」と聞いてみたのです。
そして何カ国語も通訳を介して戻ってきたのが、「聞いてくれることは嬉しいけれど、我々は、あなたのおっしゃる『幸福』という概念と言葉を持ち合わせていないので、答えることができない」。
その言葉にただただ驚きました。」
というところであります。
これだ、この話なのだと思いました。
古館さんは、「言葉というのは表裏一体の関係で、幸福があれば不幸せというのも必ずついてくるし、不幸せがあるから幸福を求める。
その部族に幸福がないとしたら、同時に不幸もないんだなって。」
と仰っています。
幸福、幸せについてあれこれと考えてみます。
滋賀県で高校教師をなさっている方が毎月送ってくださる『虹天』という冊子に、実践人の家理事長である兼氏俊幸先生の講演録が載っていました。
兼氏先生の講演録には、森信三先生の教えが凝縮されています。
そのなかに、森先生の幸せについて三つの教えが書かれていて、これも大いに参考になります。
まずは「縁ある人々との人間関係を噛みしめて、それを深く味わうところに生じる感謝の念に他なるまい」ということです。
それから「幸福とは求めるものではなくて与えられるもの。
自己の為すべきことをした人に対して天からこの世において与えられるものである」ということです。
そして三つめが「いかにさやかなことでもよい。とにかく人間は他人のために尽くすことによって初めて自他共に幸せとなる。これだけは確かです」というのであります。
「いかにさやかなことでもよい。とにかく人間は他人のために尽くすことによって初めて自他共に幸せとなる。これだけは確かです」というのは、私も好きな言葉で、よく法話の折に使わせてもらっています。
そこで兼氏先生は、
「森先生は「縁の大切さ」を誰よりも大切にされた方です。
日本中を一万回以上、講演で回っておられましたが、何日も家を空けて帰ってくるとハガキや手紙が山のように来ているんです。それに対して一人ひとり、ハガキを書いたり手紙を書いたりして返事を書くのです。」
と書かれています。
そして「森先生は「全集」二十五巻、「続全集」八巻など膨大な著述があるのですが、こんなふうに言われてます。
「私の書く八割九割は、この手紙の返信です。そして余った時間を著述に当てるんです」」
というのです。
この言葉などにも大いに反省させられます。
私も、森先生にはとても及びませんが、毎日たくさんのお手紙お葉書を頂戴します。
一日か二日、出かけて帰ってきて机の上に膨大な手紙が積まれているのをみると、ゾッとしてしまうのです。
たいへんだと思ってしまいますが、どの方も心を込めて書いてくださったものですから、できる限り返事を書くように努めます。
お中元やお歳暮の時期には、それに送り物の礼状も書きますので、多くの時間を割かれてしまいます。
こんなことは早く仕上げて、自分の仕事である原稿を書いたり、勉強したり、坐禅をしなければと思っていたものです。
特に修行道場の摂心という坐禅の期間には、早く礼状を書き上げて坐禅しないとと思ったものです。
十二月にはお歳暮の時期でもあり、臘八の摂心という修行の時期にもなりますので、少ない睡眠時間の中で書いていると、意識が朦朧としてしまい、墨で書く手紙を汚してしまったりしまうのです。
はやく仕上げないととばかり思っていると、雑になってしまいます。
そこである時から、このお礼状を書くのが坐禅だと思うようになりました。
今与えられた仕事が最善の修行だと思うようになったのであります。
礼状ばかりを書いていると、礼状を書くことがなくなると幸せなのだろうと思ったりするのですが、こうして礼状を書いていることが幸せなのです。
まず誰かの爲になっているのです。
そう思ってはいても時に返信を書けないものもありますのでご容赦を願うばかりであります。
まずはこうして毎日、些かの文章を書いて録音して皆様にお届けできているのは、幸せだと感謝しています。
横田南嶺
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