国歌に対しては敬意と誇りをもち、厳かに保つべきというのは十分理解している。過剰なアレンジや拙い歌唱力が往々にして品位を落とす例も枚挙に暇がない。しかしこの鈴木雅之の君が代は、国歌への敬意とエンターテイナーとしてのサービス精神(選手を鼓舞し、観客も楽しませるという)の両方の点で、アレンジ可能な範囲の最大値をとったのではないかと思う。 本来勇壮にして誇り高いアメリカ国歌を、あたかも艶のあるラブソングのように歌ったマーヴィン・ゲイの例がある。("Marvin Gaye sings American National Anthem" で検索)アメリカ国内でもおそらく賛否両論はあっただろうが、少なくとも会場にいた観客の大半は新鮮な驚きをもって好意的に受け止めていたように私には見えた。自由を最大の価値とする国民性と、あのような突飛なアレンジさえ受け入れる国民としての懐の深さには脱帽せざるを得なかった。 マーヴィン・ゲイに対する「マーチン芸」として、これはこれでいいと思うのだが。