_____________Page7____________ その低音絃の樂句はヴァイオリンに依て應へられ、そして後、同音符の繰返しから成る美しくも意氣揚々たる一つの主想は、先づホルンに依て最强奏に出され、そして全管絃に依て續けられる。是等二つの相對比する主想は、種々巧妙な方法に依て暫くの間發展せしめられて行く。 中間奏部(トリオ)(ハ長調)は、ベルリオーズが 𧰼の跳躍に喩へた諧謔的な響を持つ主想に依て、低音絃に開始される。この𧰼に喩へられた様子は、續いて起る遁走曲風の取扱の中に於て尙一層明かになる。 第六面 はこの中間奏部(トリオ)の第一部の繰返しに開く。中間奏部(トリオ)の第二部は、尙もその諧謔的な音符を續けて行く。それは恰も扱ひの厄介な低音絃が、是を離れて行く事は相當困難であるかの感を與へる。乍然一度是を離れると彼等は立派な歩調で進む。曲は尙も遁走曲風に扱はれる。この主想が効果的に扱はれて、ヴァイオリンとフルートから木管群を通じて下降し低音絃の指揮に達すると 諧謔曲の第一主題に立戻つて再現が始まる。この樂章の開始部では音を接續して滑か(レガート)に奏されたのがこゝでは音を切り離して明確(スタツカート)に、そして時には指彈(ピツイカート)に依て、奏される事から生じてゐる表現上の大きな相違を注意せられよ。特にファゴットの諧謔的な斷音走句(スタツカート)を。大きくホルンに出された主想は、 _____________Page8____________ こゝではクラリネットと絃の指彈とに依て極めて靜かに出され、同時に斷音のファゴットの聲部は剽逸な味ひを添へてゐるのである。一つの新しい主想が絃の指彈に出て暫く續く。 と、次には愈々この交響曲を通じて最も感動的な數瞬 - 即ちこの諧謔的に附隨する中間走句を經て休止なく終結章に移り進む所 - に到達する。先づ絃樂器の奏する變イ調の持續和絃(サステーンド・コード)に乗つて、ティムパニが極めて靜かに、變化のある律動を始終ハ音で叩き始める。稍その力の加はる頃、尙續くティムパニを縫ふてヴァイオリンは第一主題から出てゐる一樂句を奏して進む。最後の數小節は急激なる漸强奏を成し、そして突如歡呼の聲を舉げて終結章に流れ込む。 終結章 アレグロ ハ長調四分ノ四、擴拡されたソナタ形式。この壯大な勝利の凱歌には、トロンボーン三つとコントラ・ファゴットとピッコロの一つ宛とが前樂章までの編成に加へられ、そして總ては行進曲風の第一主題に参加する。 _____________Page9____________ 第七面 管に出される連結走句は、絃樂器群が細かく刻む音符で奏し續ける場合、加速度に曲を進める爲にベートーヴェンが好んで用ひた手法の優れた一例を示す。 第二主題(ト長調)は主として三連音の樂句より成り、是迄の總ての壯麗豪快に對比を提供する。是と共に低音に現れる句型は、後に展開部に於て重要な役割を演ずるが故に、注意せられよ。 間もなく結尾に這入ると、第三番目に當る主想がヴィオラとクラリネットに聞え、ヴァイオリンが是を彩る。この主想が全管絃の强奏に出されると、この樂章の提示を終わるのである。以上提示部全體は繰返しの記號を附けられてゐるけれども、演奏上の慣例に從つてこのレコードにも省略された。 展開は、暫くの間第二主題(三連音のもの)に依て進んで行く。前述の低音に出た句型が、頻に活用されて交互に各樂器に出される。この間にあつて、トロンボーンに强奏される堂々たる一走句が注意を惹くと共に、叉木管の聲部に興味深いものがある。音樂の流れは、今や全管絃の最强奏に依て最も强烈な一頂点に迫上り、こゝに展開が結ばれる。 _____________Page10____________ と、次には全く思ひ懸けなく、第三樂章諧謔曲の想出が優美な最弱奏に甦つて來る。それはオーボエ獨奏の型を採つて新しい姿で進むが、軈て力の加はると共に、 第八面 再現に這入り、提示の場合と略同様に進む。けれども、こゝでは第二主題がこの樂章の基音調(ハ)に現れる事は言ふまでもない。第三主題は(是も亦基音調にて)今度はクラリネットとヴィオラに代つて、オーボエとクラリネットに出されるが、その他は提示の場合と殆ど變らない。再現の最後の部分は、第二主題(三連音のもの)に據て書かれ、全管絃の最强奏に結ばれると、 あの美しい連結走句の後半が先づファゴットに出されて結尾に這入る。この結尾は長いもので且重要である。ファゴットにホルンが美しく應ずると、今度はフルートが是に答へ、更にクラリネットが加はり、軈て木管群から絃へ移つて、暫くの間はこの連結走句後半の展開に依て漸次熱を加へて行く。愈々最後には第三主題に據るプレストに導かれ、極度に壯快な熱狂を經て、ハ長調の和絃の豪壯な反覆に全曲は完結される。 _____________Page11____________ 作曲者に就いて ルードウィッヒ・ファン・ベートーヴェン(一七七〇 - 一八二七)音樂家としての彼は數多の分野に於ける最高峰として聳え立つ。各々九つの交響曲と序曲、二十三のピアノ奏鳴曲、十七の絃樂四重奏曲、是等は寔に世界極美の音樂であると言ふも敢へて過言でない。彼のニ調彌撒曲は力に溢れ深さを湛へ且叉極めて個性的な特徴を發揮したもので、彌撒曲として合唱管絃樂を以て書かれたあらゆるものゝ中、正に是に比肩し得ると言はれるものは、バッハの彌撒曲ロ短調あるのみである。ベートーヴェンは歌劇としては唯一つ『フィデリオ』を書いた。 ベートーヴェンの作曲は決して速かではなかつた。常に抹消や修正の勞を惜しまなかった。彼の作曲過程は、今日遺つてゐる彼の『スケッチ・ブック』の如きに依て詳細に知る事が出來る。其處に吾々が受ける印𧰼は、困苦の末にその妥當な表現の手段を發見し、且、恐らくは嘗て世に在つた如何なる作曲者の努力をも凌ぐ艱難苦勞の後に、初めて是を成し遂げてゐる一つの力强い個性のそれである。 - パーシー・ショールス『コロムビア音樂史』より - _____________Page12____________ 指揮者に就いて 偉大な音樂家ポール・フェリックス・ワインガルトナーは、一八六三年墺國ダルマチアのツァラに生れ、先づレミイの敎を受けてピアノと作曲に志したが、後にブラームスの推舉を得てライプチヒ音樂院に學んだ。モーツァルト賞を得て卒業の後、リストの助力を得て一八八四年ワイマールに上演された彼の最初の歌劇『サクンタラ』の成功以來、指揮者として作曲者としての彼の華彩な生活が始まつた。マーラーの後を襲ふてウィーン・オペラの指揮者となつた事もあつた。 劇音樂、聲樂曲、管絃樂曲、室内樂曲等々、數多の作品の中でも特に彼の管絃樂曲は堂々彼を大家の列に加へる。乍然餘りにも偉大な指揮者としての彼の名は、それ等作品の光を遮ぎるの感が深い。 著書も多い。就中『指揮法に就いて』と『ベートーヴェン以後の交響曲』とは、不朽の名著として永く傳へられるであらう。 _____________Page13____________ Columbia Masterworks Album Set No. 164 Beethoven SYMPHONY NO. 5 IN C MINOR Op. 67 By FELIX WEINGARTNER conducting LONDON PHILHARMONIC ORCHESTRA J8120 First Movement: Allegro con brio⋯⋯⋯In 2 Parts J8121 Second Movement: Andante con moto⋯(Parts 1&2) J8122 Second Movement: Andante con moto⋯(Conlusion); Third Movement: Allegro (Part 1) Third Movement: Allegro (Conclusion); Finale: Allegro (Part 1) J8123 Finale: Allegro (Part 2 & Conclusion) Descriptive Notes in English on this Masterworks Album Set may be had by applying to the Columbia Gramophone Company of Japan, Ltd., P. O. Box 6, Kawasaki. ______________________________ [JP] Columbia : World Music kzbin.info/aero/PLp3xdm5tMGurbdjVIWzS_ZlQHJ8cFG9Fn&si=H0TNnO4j0zrAGaiF
@hansbjarning16 күн бұрын
Thank you very very much for uploading this, sorry to ask but can you make a video of Nicolai Malko's recording of Dvorak's new world symphony with the Danish Radio Symphony Orchestra in 1948 please? Thank you so much.
@Old_Record_Music15 күн бұрын
Sorry, I do not have his recording... Thanks for your comment :)
@hansbjarning15 күн бұрын
@@Old_Record_Music Oh okay, that's alright, you're very welcome, thank you for this great recording of Beethoven's 5th.