この対談の前半で千葉がTortoiseという90年代のポスト・ロックなる範疇のバンドをベタ褒めし、その3枚目アルバム『TNT』を世紀の傑作という触れ込みをする場面がある。私はそのバンドを知らなかったのでyoutubeで検索し、聴いてみた。最初にWikipediaで調べると全編instrumentalのバンドだという。まずドラムがかつてのマイルスのロスト・クインテットのジャック・デジョネットのような煽り方で走りだす。そこに割合無機質なelectric guitarが、簡潔なフレーズを繰り返し重なる。これも弾き方ははジャズっぽい。 ここまで聴いて、どこかで聴いた覚えがすると思った。思い出すと、マイルスの60年代後半のアルバム『In A Silent Way』にそっくりなのだ。『TNT』冒頭の曲は結局途中でホーンのフレーズまで入ってくる。マイルスの前期のアルバムを研究し、パクっている。という言い方が悪ければ、‘相当影響されてる’のが如実に分かる。千葉はこれを「世紀の傑作」という言い方をするが、違うのではないだろうか。何よりもマイルスのあのアルバムをパクってるという手法については、当のTortoiseメンバーが、自覚しているはずである。 冒頭はもろ『In a Silent Way 』であり、その後もあのアルバムの変奏のような演奏が続いた。マイルスのアルバムはジャズの範疇に入るが、『TNT』はよりpopで分かり安いアンサンブルやマイナー調の曲もある。しかし基本にある音作りが上記マイルス・アルバムにあるのは間違いないだろう。そのことと関係あるのか定かでないが、アルバム『TNT』には「A Simple Way To Go Faster Than Light That Does Not Work」という何やら「In a Silent Way」に似たスペルの曲が収録されてもいる。 『TNT』は『In a Silent Way 』をこの時代に再現と応用したという一点で評価はできるが、千葉の言うような絶賛評価は外れている。偉大なのは『In a Silent Way 』の方であり『TNT』ではない。千葉は何を言っているのか。不審に思うことしきりである。