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菅野由弘:崩壊の神話〜オーケストラのための〜(1995)
Yoshihiro Kanno:A Mythical Implosion for Orchestra(1995)
1995年5月7日サントリーホール
指揮:尾高忠明
演奏:NHK交響楽団
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NHK交響楽団委嘱作品
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Ⅰ.フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネルギー
Ⅱ.ナガサキ=破壊
Ⅲ.メタリック・キューブ=再生への始まり
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Ⅰ The Fractal Zone
Ⅱ NAGASAKI
Ⅲ A Metallic Cube
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崩壊のエネルギー、蓄積に次ぐ蓄積は、やがて崩壊に向かわなくてはならないのだろう
か? 天変地異にせよ人為的破壊にせよ、崩壊に至るには莫大なエネルギーを必要とす
る。それこそすさまじい力だ。50年前の戦争が既に遠い過去のものになりつつある現在
も、世界各地に戦いの絶えた試しがない。阪神大震災のような天変地異は、今の人間の力
では防ぐことも、避けることも、逃げることさえもできないとするならば、せめて、人為
的崩壊だけでもくい止められないのだろうか。少なくとも加害者にならない努力、これは
私たちにも出来るような気がするのだが---。
終戦後50年の節目に当たる今年、NHK交響楽団からの委嘱を頂いたのも何かの導き
かと思いつつ作曲の筆を進めた。曲はⅠ.フラクタル・ゾーン=蓄積されたエネルギー、
Ⅱ.ナガサキ=破壊、Ⅲ.メタリック・キューブ=再生への始まり、の3楽章からなる。
フラクタルは、自己相似形を持つ複雑な図形を作ったり、複雑な自然現象を分類、解析
する最近の理論で、“自己相似形”の集積がヘテロフォニーを作り出す日本の伝統音楽の
あり方を考える上でも参考になる。夜中にコンピューターが必死でフラクタル図形を演算
しつつ描き出していく姿を見ていると、そこに内包される静かなエネルギーに圧倒され
る。
ナガサキは今の所人類最後の原子爆弾の被爆地である。我が息子は、93年8月9日の
未明に生まれた。あの日の長崎だったら数時間で終わりの命だ。1歳9カ月の今、本当に
スクスクと育っている事に感謝し喜べば喜ぶほど、あの日でなくて本当によかったと、心
から思う。
メタリック・キューブ、金属の立方体は、人為的産物の象徴である。金属は天然に存在
するものだが、それを取り出し、立方体を作るというのは、今の所地球上では人間にしか
できない。そして、再生は混沌より始まる。
この作品は、1995年にNHK交響楽団の委嘱で作曲、同年5月7日にサントリーホー
ルで、尾高忠明指揮、NHK交響楽団の演奏で初演された。