品川歴史探訪 徳川家光と禅僧沢庵 品川 東海寺

ナレーション「江戸時代の始め、品川に御殿がありました。品川御殿です。江戸幕府の基礎を築いた第三代将軍 徳川家光は、茶会や鷹狩りなどでたびたび品川御殿を訪れています。そして、家光は品川御殿と隣接した場所に禅僧沢庵のために東海寺を建立しました。今回の番組は、品川を愛した将軍家光と東海寺を開山した禅僧沢庵について紹介します」
ナレーション「この地図は、現存されている最古の江戸図です。絵図の右下には品川が描かれています。品川御殿を確認することができます。御殿とは、将軍が茶会や鷹狩りなどで使用した別邸のことで、品川御殿は、御殿山に建てられていました」
渡辺さん「私は今、昔、品川御殿があった場所に立っております。徳川家光は、大変品川の土地を愛しておりました。それは、風光明媚だったからです。寛永10年(1633)から、亡くなる慶安4年(1651)までの19年間で、品川へ御成りしたのは、資料などから確認すると189回を数えます。江戸府内外を問わず最高の御成数となっています」
ナレーション「足繁く品川を訪れた家光ですが、その足跡は品川御殿や東海寺はもちろんのこと、南品川の妙国寺、現在の天妙国寺や東海寺の鎮守となる北品川の品川神社などにも及んでいます」
ナレーション「特に家光と妙国寺との関わりは親密でした。寛永11年(1634)、倒壊した五重塔を再建するなど力を注ぎました」
ナレーション「東海寺の開山、沢庵宗彭は江戸時代のはじめに活躍した禅僧です。沢庵の生涯は波乱に飛んだものでした」
渡辺さん「こちらは、徳川家光が沢庵のために建てた東海寺です。沢庵は、天正元年(1573年)、但馬の国出石(いずし)、現在の兵庫県豊岡市に生まれました。沢庵は、禅僧として修業をし、わずか37歳で大徳寺の住職となりました」
ナレーション「大徳寺は、京都にある臨済宗大徳寺派の総本山です。京都でも有数の禅宗寺院でした。沢庵は37歳の若さで大徳寺の住職となります。とても早い出世でした。しかし、幕府の宗教政策を批判したということで、出羽国上山（現在の山形県上山市）に流罪となりました」
渡辺さん「流罪になった沢庵和尚ですが、地元の藩主からとても大切にされました。そして、沢庵和尚を慕う各地の方々から、たくさんの贈り物がありましたけれども、それらを身につけることなく、質素な生活を送っておりました。徳川秀忠が亡くなり大赦が行われて、沢庵和尚は京都大徳寺の塔頭大仙院に帰りました。その後、二条城で徳川家光と接見することになります。家光は、たいそう沢庵和尚を気に入り江戸に呼び寄せることになりました」
ナレーション「寛永15年（1638年）江戸にいた沢庵が、故郷但馬国出石の藩主小出吉英にあてた書状が残っています。家光が品川御殿で開いた茶会の席での家光の言葉が記されています」
ナレーション「家光は、品川に新寺を建立することを伝えました。新寺は約1年かけて造営されました。寛永16年(1639)5月19日、家光が御成りになり、「万松山東海寺」と命名しました。境内地4万7000坪を賜った大変大きな寺院でした。東海寺は明治維新で廃寺となってしまいました。しかし、かつての塔頭玄性院が引き継いで現在に至っています」
ナレーション「東海寺に家光ゆかりの品が多く所蔵されています。家光実筆の書で、『東照宮』と書かれています。東照宮とは、徳川家康を祭る神社のことです。家光は書画も多く書いています。東海寺に所蔵されているカワセミの絵。家光は幕府の御用絵師の狩野探幽から絵の手ほどきを受けました」
ナレーション「家光が東海寺に沢庵を訪ねた帰り、沢庵は品川の海岸まで見送るのが常でした。家光と沢庵の交流について、こんな話が伝わっています。家光が『東海寺といえども海近し』と問うと、沢庵はすぐさま、『大君を将軍というが如し』と返したといいます。
ナレーション「正保2年(1645)、73歳を迎えた沢庵は、画工に命じて、大きな一円相を描かせました。そして、そこに1点を加えて肖像画としました」
渡辺さん「沢庵和尚に死期が迫ってまいりました。その時、弟子たちは何か字を書いてくれと頼みました。そこで沢庵和尚は『夢』という一字を残しました。そして、また遺言を残しております。その内容は、『自分たちが死んだら裏の山に埋めてくれ　そして立ち去れ　斎をするべからず　経を読むなかれ　石塔や像を作るなかれ』これは、沢庵和尚の強い心のあらわれだと思います。享年73歳でございました」
ナレーション「現在、東海寺の大山墓地に眠る沢庵。その墓は、小堀遠州が設計したと伝えられるもので、中央に大きな自然石を配した極めて特異な形をしています」
ナレーション「江戸幕府の基礎を築いた家光は、慶安4年(1651)、46歳で亡くなりました。東海寺に残る梵鐘は、家光の冥福を祈るため、5代将軍綱吉の母である桂昌院が寄進したといわれています」
ナレーション「品川区には、歴史を感じさせる史跡が数多くあります。是非一度、足を運んで見てはいかがですか。次回も品川歴史探訪をお楽しみに」