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Yuji Ishida, Professor, Graduate school of arts and sciences, The University of Tokyo
30歳まで無名のヒトラーがなぜ短期間で独裁政権を樹立できたかを最新史料も使い解説した。「ドイツをベルサイユ条約の軛(くびき)から解放した外交成果でカリスマを獲得」。人気の源泉はよく響く声にもあった、との意外な指摘も。「石田白熱教室」は動画でご確認を。
司会 倉重篤郎 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
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記者による会見リポート
「アドルフに告ぐ 甦(よみがえ)るな!」
人権と民主主義を蹂躙した希代の独裁者。こんなアドルフ・ヒトラーに振られた歴史の役回りが近年、いびつに様変わりしている。
その巧みな演説と、様式美に偏した演出法が若者らにウケている。ユダヤ人大虐殺の事実は棚上げされ、「偉大なカリスマ性」ばかりに目が行く。ウソと謀略に満ちたヒトラーとナチ党(国民社会主義ドイツ労働者党)の手口は、いまや政治の常套手段でもある。
格差とテロ、宗教対立、金融資本の跋扈(ばっこ)、経済危機、大量難民、極右台頭。世界に波乱をもたらすさまざまな不安が、その「復権」を後押ししている。
それにしても、なぜ民主的な独ワイマール憲法下でなぜ「巨悪アドルフ」が生まれ、肥大化したのか。第二次大戦後の世界がこの問題に正面から向き合い、克服しなかったのはなぜか。独裁者の実像に迫る冷戦後の新資料を踏まえ、石田教授は改めて問いかける。
どこか似た光景が目の前にある。例えば、当時の大統領緊急令。その乱発により、強大な権力がやすやすと1人の手に握られた。現代版が自民党の憲法草案(緊急事態条項)ではないのか。
あるいは独裁の総仕上げとなる全権委任(授権)法。ナチ党はわずか1日の審議で仕上げている。数を頼み、短時日に法の成立を図る、わが国会の姿が重なる。
憲法改正に向けた動きが加速する政治の今を語るとき、教授から危機意識がほとばしる。
世界を見渡せば、極右や強権的なリーダ-たちが先進国を闊歩する。マスメディアが早々と白旗を掲げ、異論が一掃されるなら、そこに巨悪が生まれてもおかしくはない。
この不穏な流れにどう抗したらよいのか。教授は、自立的な市民の勇気に期待するのだが、ことはいささか複雑だ。
かつてのドイツ市民がそうであったように、どんな人であろうと、はびこる「陳腐な悪」(H・アーレント)からは免れ難い。しかも、膨大なネット情報の海に漂う現代では、善悪の判断さえ揺らぎがちだ。
巨悪アドルフの再来阻止は、市民それぞれの「内なる悪」との闘いから始まる。
朝日新聞出身
田上 幹夫