@@henchrou 元記事も然りこの情報自体が伝言ゲームになってますね...乳糖不耐症と混同されていますね。 元の論文をよく読んでみたのですが、そもそも日本人の腸内から生海苔を分解する新しい菌/酵素が発見されたという内容の論文ではないですね。 この論文で"解明"されたのは、B.plebeius("日本人の腸内によく存在する")と呼ばれる細菌が生成できる海苔を消化する酵素の遺伝子がZ. galactanivoransと呼ばれる 赤藻に付着していた細菌から移動した事を遺伝学的に証明したという研究です。[1](つまりこの論文の研究対象はZ. galactanivoransという菌であって人ではない。) また、B.plebeiusを発見したのは2005年に行われた日本の研究で、その事は元の論文でも引用から確認できます。[2] (つまり日本人にだけその様な菌が存在するかどうかという研究ではない。) 海藻の多糖類(ポルフィラン)を分解するには糖質関連酵素(CAZymes)が必要であり、人間では生成できない為、腸内細菌によって消化してもらう必要性が ある。←この時点で論文でははっきりと人種と海藻の消化が遺伝し得ない事をはっきりと断言しているのですが誤解されます。 前提として人ゲノムから生成される消化酵素の内、多糖類を分解できる酵素は20種に満たずその殆どはデンプンや乳糖を分解するラクターゼなどに 限られる事が人ゲノムの研究などで明らかになりました。[3] 人の腸内に生息する細菌にはこれらを分解する酵素を持つ事が知られており、これらの酵素の事を糖質関連酵素(CAZymes)と呼びます。腸内細菌由来なので当然 遺伝で伝わる事はなく消化酵素を持つ細菌は食生活を通して人間の体内に入っていきます。 海藻の多糖類(ポルフィラン)を分解するCAZymesにはB.plebeiusなどが知られていましたが、B.plebeiusは海洋由来の細菌ではありません。(元から海苔を消化できる 遺伝子を持っているはずがない)。腸内細菌には"接合"と呼ばれる細胞同士が接触してお互いの遺伝子を交換する能力(遺伝子の水平伝播)を持つ為おそらく海洋に はB.plebeiusにポルフィランの消化酵素を生成する遺伝子を与えた”元菌”がいるはずである。 論文ではZ. galactanivoransと呼ばれるフランスに自生する赤藻の一種に付着していた菌の遺伝情報を解析し、海藻を分解する酵素を生成する遺伝子を発 見した。なお、この遺伝子(PorA)とB.plebeiusの持つ遺伝子(Bp1689)には遺伝的相同性(48%~69%)があり、これはB. plebeiusが、おそらくZ. galactanivoransから水 平遺伝子伝達によって海洋細菌から遺伝子セットを受け取った通常の腸内共生細菌であることを示している。 ↑ここまでがこの論文の研究で明らかになった結果だけどあまりに難解で記事制作者は読み解けなかったと思われる。 ↓逆に考察で登場する推論(結果に対する自由な考察)で現れたワードはキャッチーなのでここだけをピックアップされ「海苔を消化できるのは日本人だけ」というデ マが拡散される原因になったと思われる。 Z. galactanivoransは陸上や外洋には存在せず沿岸にしか生息しない、ヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)と呼ばれる腸内細菌などの遺伝子の塩基配列情報 を読み取るプロジェクトによって集計されたデータからアクセス可能なアメリカ人と日本人の腸内細菌のサンプルデータを比較した。(あくまで海藻を食べる人種に B.plebeiusが存在するかという議論の発展なので母数はあまり関係がない) 元々アメリカ国立衛生研究所 (NIH) が開始したプロジェクトなのでアメリカ人18人のデータがあり、 更にプロジェクトの一環で上記の日本の13人の研究結果のデータも集積されているので日本人とアメリカ人のデータがある。 結果、アメリカでの研究(アメリカ人対象)ではB.plebeiusは見つからなかったが日本の研究(日本人対象)ではB.plebeiusが 見つかった。海藻を食べる習慣がある事とB.plebeiusを腸内に保有していることには一定の関連性があり ”おそらく西洋人 にはB.plebeiusを腸内に保有していないだろう”と結論付けられた。 論文のどこにも海苔を消化できるのは日本人だけという文章がないのにタイトルに含まれる "Japanese gut microbiota"(日本人の腸内細菌叢) と本文の "Altogether, analyses of the available genomic and metagenomic data indicate that porphyranase and agarase genes are specifically encountered inJapanese gut bacteria and are probably absent in the microbiome of western individuals." ("全体として、利用可能なゲノムおよびメタゲノムデータの分析は、ポルフィラナーゼおよびアガラーゼ遺伝子が日本人の腸内細菌に特異的に存在し、西洋人のマイクロバイオームには存在しないことを示している。") "Interestingly, in oneJapanese family, the mother and her unweaned baby girl had a micro-biota containing porphyranase and agarase genes, suggesting thatporphyranolytic gut Bacteroides strains may be transmitted betweenrelatives. In contrast, when analysing the gut metagenome data of 18North American individuals (total read length, 1,830,767,417 bp;average length, 223 bp) no porphyranase or agarase genes were detected"(興味深いことに、ある日本人の家族では、母親と乳離れしていない女児の腸内細菌叢にポルフィラナーゼとアガラーゼ遺伝子が含まれていたため、ポルフィラナーゼ分解性腸内バクテロイデス菌株が親族間で伝染する可能性があることが示唆された。対照的に、北米人18人の腸内メタゲノムデータを分析したところ(総リード長1,830,767,417bp、平均長223bp)、ポルフィラナーゼ遺伝子もアガラーゼ遺伝子も検出されなかった。) を見たら勘違いするだろうな...って思った。遺伝学的に非常に素晴らしい研究結果なのだがあまりにも難解なので、google翻訳を頑張って使って読んだけど 素人では論文の主旨が理解できず、「海苔を消化できるのは日本人だけ」と信じていなくてももはや後述の部分しか見えないくらいだった。 この論文は、 何の研究? →海苔の消化を助けるB.plebeius(人間の腸内細菌)の消化酵素がZ. galactanivoransと呼ばれる赤藻に付着していた細菌由来だった件 「海苔を消化できるのは日本人だけ」と流布している?→No, そもそも海苔を消化できる人種を特定する研究ではない。 生海苔を消化できるのは日本人だけ? →No, 人間はそもそも生海苔を消化する酵素を持たない、消化酵素は腸内細菌によって後天的に獲得する。 外国人は海苔を食べると下痢になる? →No, 海藻の多糖類(ポルフィラン)は加熱すれば壊れる。薩摩芋を加熱すると食べれる事と同じ。 データ数が少ないから根拠が薄い? →No, 人種は主題ではないし遺伝情報(塩基配列)が問題であって母数はこの場合あまり関係がない。 フランスの論文だから信用できない? →データは日本とアメリカの研究結果である。 Natureは信憑性の低い論文を掲載する所だから仕方ない?→論文は再検証しない事には何とも言えない。 [1]www.researchgate.net/publication/43074062_Transfer_of_carbohydrate-active_enzymes_from_marine_bacteria_to_Japanese_gut_microbiota [2]www.researchgate.net/publication/7596410_Bacteroides_plebeius_sp_nov_and_Bacteroides_coprocola_sp_nov_isolated_from_human_faeces [3]www.researchgate.net/publication/281201891_The_abundance_and_variety_of_carbohydrate-active_enzymes_in_the_human_gut_microbiota
1:元論文は日本人と米国人しか調査していないので、この論文で言えるのは生の海藻に含まれるポルフィラン多糖分解酵素を腸内に持つ人は少なくとも日本人には居る、ということだけですね。 持っていない人は日本人にも居たので、一部の米国人と日本人は生の海藻に含まれるポルフィラン多糖を消化出来ず、少なくとも一部の日本人はそれが出来る、としか言えません。 欧州については全くの不明ですし、米国でも沿岸部などでは持っている人が居る可能性もあります。 実際、2022年の「Diverse events have transferred genes for edible seaweed digestion from marine to human gut bacteria」という論文では、どうやら腸内細菌が海洋バクテリアから分解酵素を生成する能力を獲得したと見られ、日本と中国で多く見られるほか北米、南米、欧州、アフリカでも見られたと書かれているようです。 (コメントで話題になっている韓国は調査対象に含まれていないようです。が、食文化的に日中に多くて韓国で少ないということはおそらくないでしょう) この結果からすると、人種はあまり関係なく普段海洋バクテリアを多く口にしている人ほど持っている可能性が高いと考えるのが妥当ではないかと思います。